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新潟地方裁判所 昭和24年(ヨ)7号 判決

債権者

東京芝浦電気株式会社

債務者

東京芝浦電気株式会社加茂工場労働組合

右代表者

組合長

主文

債権者が保証として金百万円を供託することを条件として次の仮処分を命ずる。

(一)、別紙目録記載の各物件に対する債務者組合員の占有を解き債権者の委任する新潟地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。

(二)、債務者組合員は債権者会社加茂工場使用の鍵全部を右執行吏に引渡さなければならない。

(三)、右執行吏は債権者の申出により別紙第二物件目録記載の建家ならびに第三物件目録記載の機械類を債権者に使用せしめ、第四物件目録記載の製品部品素材類を債権者に引渡さなければならない。

(四)、債務者組合員は債権者が右加茂工場に於いて行う業務を妨害してはならない。

(五)、右執行吏は前各項の目的を達する為債務者組合員に対し別紙第一、二物件目録記載の土地建物より退去を命じ且つその立入を禁止することが出来る。

(六)、本件訴訟費用は債務者の負担とす。

申請の趣旨

別紙第一乃至第四目録記載の不動産及動産に対する債務者の占有を解いて債権者の委任する新潟地方裁判所執行吏にその保管を命ずる、債務者はその占有する債権者会社加茂工場の鍵全部を右執行吏に引渡さなければならない、右執行吏は債権者の申出により別紙第二目録記載の建家、ならびに第三目録記載の機械類を債権者に使用せしめ、第四目録記載の製品、部品、素材類を債権者に引渡さなければならない、債務者は債権者が右加茂工場に於いて行う業務を妨害してはならない、右執行吏は債務者組合員に対して別紙第一、二目録記載の土地建物より退去を命じ、且つ、その立入を禁止することが出来る、その他前各項の目的を達する為適当な措置を執ることが出来る。

事実

債権者代理人は、その申請の理由として、陳述した要旨は、

(一)、債権者会社は資本金九億五千八百万円で全国各地に四十四の工場を有し電気機械器具の製造販売、化学工業、金属工業等を営んで居るのであつて、新潟県南蒲原郡加茂町大字上條の債務者会社加茂工場では主として蛍光灯、誘蛾灯、電気アイロン、配線器具類を製造しているのである。

(二)、債務者組合は右加茂工場の従業員約五百名をもつて組織されている未登記の労働組合であつて、債権者会社各工場労働組合をもつて組織する東芝労働組合連合会に加入している。

(三)、債権者会社は終戦後の経済界の激変による資金難、資材難及過剰人員未整理等の為経営困難に陥り、最近一ケ年(昭和二十二年十月より昭和二十三年九月まで)の支出所要金は約三十七億八千万円であつたに対し、収入は僅かに約二十六億九千万円に過ぎず差引約十億九千万円の赤字を生ずるに至り、その内約四億四千万円は借入金で賄つて来たが、猶ほ残額約六億五千万円は未払となつている状態であつて、その結果昭和二十三年九月末現在に於ける新勘定による借入金と未払金の合計は十八億三千万円に達したのである。

(四)、債権者会社が右のような不健全な企業経営状態を敢て持続して来たのは昂進するインフレの重圧に喘ぐ従業員の生活を維持する為であつたのであるが、我が国現在の経済力は斯る不健全な企業形態の存続を許さず、又金融機関は債権者会社に対する赤字融資の道を断つたので債権者会社は遂に企業経営の破滅寸前の最悪段階に直面するに至つた。そこで債権者会社としては労資共倒れの危機を打開更生する為企業の合理化を計らねばならなくなつたのであるが、その為には各工場別に独立採算制を実施する以外に途なく、又金融機関もこれを融資条件として要請するのでその態勢を整へることに決したのである。

(五)、右の工場別独立採算制と云ふのは大略次の如き内容のものである。即ち、

(一)、会社企業を(イ)本社、(ロ)軽電機、(ハ)重電機の三部門に分つ。

(二)、各工場は夫々の部門、本部の企業に基き各別に独立の損益計算及び資金計画を立てて実施し工場管理に関する統率生産計画製品の販売集金並に資金の調達配分に関する事務は各部門本部が管掌する。

(三)、売上収入金は各部門本門の一般管理費、特殊経費支払利子に売上収入金の五%を加えて二十%を控除し、残高八十%を売上製品毎に当該生産工場に還元する。

(四)、賃金は各部門又は各工場毎にその業態に適応したものとする。

(五)、各部門はその業務を遂行する為部門運営に必要とする機構を夫々組織する。而して右の如き内容を有する独立採算制は各工場の実態によりそのまま無条件でこれを採用出来るところもあるが、人員過剰で不採算の工場は従業員や工場施設等の整理をしなければこれを実施し得ないので加茂工場のような過剰人員を擁する工場に於いては已むなく人員の整理をなすこととし、その具体的方法として従業員の生活をも考慮した上先づ(イ)退職希望者の募集、(ロ)配置転換希望者の募集をなし、なほ過剰人員のある場合には、(ハ)帰休措置を講ずることとした。

(六)、右の帰休措置と云ふのは債権者会社が特別の場合に於いて従業員に対し一定期間工場に出勤就業することを禁じ、復帰通知を受けるまで家庭に待機することを命ずるものであつて、その期間は大体三ケ月とするのであるが工場の経営情況によつて更新されることが予定されて居る、又賃金は従業員が労働を提供しなくともよい点と、その原因が恰も会社の責に帰すべき事由による休業に類似している点を考慮してその期間中第一ケ月は平均基準日収の八割、第二ケ月はその七割、第三ケ月はその六割を帰休手当として支給する(但しこの額が労働基準法第二十六条に定める平均賃金の六割を下るときは平均賃金の六割とする)のであつて右の帰休措置は解雇でないことは勿論解雇の前提でもないのである。

(七)、そこで債権者会社は右の如き内容を有する独立採算制及びこれに伴ふ人員理整(帰休措置を含む)を実施する為債務者組合の上級組合である東芝労働組合連合会との間の労働協約に基いて同連合会との間に昭和二十三年九月十五日以来数回に亘つて経営協議会を開いて協議したが、同連合会は種々口実を構へて提案の撤回を要求し遂に同年十一月六日協議不成立に終つた。

(八)、ところで前記加茂工場に於いては、昭和二十三年八月より十月まで三ケ月間の一ケ月平均生産額(製品及部品)は五百三十万円で、之に要する従業員五百人の人件費は三百十万円、材料及経費四百四十万円計七百五十万円で差引二百二十万円の欠損を生じている。それで経営を健全化する為には、製品製造原価の内材料費及経費が約七十五%を占めるのであるから、人件費は約二十五%でなければならないのであつて、従つて当時の平均賃金四千五百円支給を維持するには、一人当り一万八千円の生産を挙げなければならないことになるので、加茂工場五百名の従業員で健全経営を維持する為には全体として月産九百万円を挙げることを要するのである、しかしながらこれだけの生産を維持することは資材配給の過少と製品に対する需要低下の為到底不可能であつて、結局縮少せる基盤の上に正常な経営をなす為には過去の実績その他より算出して昭和二十三年十二月以降の生産額を取り敢へず五百万円に止めるより他なく、これを前記一人当一万八千円の生産額を以つて逆算すれば従業員は三百名程度で充分であつて結局従業員五百名の内約二百名は過剰人員となるのである、当時加茂工場は債権者会社工場中、不採算工場の代表的なもので、独立採算制実施の為には帰休による過剰人員の整理を絶対に必要としたのである。ここに於いて債権者会社加茂工場長は債務者組合との労働協約に基き同組合との間に同年十一月十六日以降再三運営協議会を開き独立採算制の実施とこれに伴う人員整理について協議しようとし、同組合に協約を求めたけれども債務者組合に於てこれに応ぜず、その不誠意のため遂に協議不能に終つたのである。

(九)、然しながら労働協約は会社の平常時に於ける労働条件を規整するものであつて、債権者会社の企業経営が前記の如く破滅に頻し会社が存亡の危機に直面するような特別事情の生じた場合には事情変更の原則により労働条件の不利益変更に関する労働協約はその効力を有せず、会社は該協約に拘束されることなく企業経営権に基いて労働条件を不利益に変更することが出来るのである。即ち会社の企業経営が危機に直面した場合には之を打開更生するため経営権の一作用たる自衛権の発動により過剰人員整理のため従業員に対し解雇よりも不利益の遥に少い帰休の措置を講じうることは当然である。尚前記経営協議会及運営協議会は何れも決議機関ではなく企業経営に関する協議機関にすぎないのである。

(十)、そこで債権者会社は同年十二月三日加茂工場に於いて独立採算制及これに伴ふ人員整理を断行することを決定したのであるが、人員整理の具体的方法として考慮した前記五記載の(イ)退職希望者の募集及び、(ロ)配置転換希望者の募集は当時の債務者組合の態度よりして到底期待出来なかつたので直ちに、(ハ)の帰休措置を講ずることゝし同日同工場従業員中の過剰人員百九十七名に対し前記(六)の如き内容の帰休命令を発し次いで翌同月四日工場整理のため同日及同月五日の二日間臨時休業をなす旨発表したのである。

(十一)、しかるに債権者組合員等は同月四、五日の両日臨時休業を無視し会社側が拒否したに拘らず、就業又は出勤と称して工場に入り多数集合して激昂した上加茂工場総務課長山森嘉人、同製造課長河井優、同器具課長志田寅一等に対し右の帰休措置が労働協約に違反し不当なものであるとしてその撤回を追つて暴行脅迫をなし、次いで同月六日より同月十六日までの同債務者組合員の一部又は大部分のものは連日就業せず怠業をなし、同月十七日は電休日であるに拘らず組合員の一部が職場に侵入した。以上の各行動は帰休者及他の従業員混交して共同になされたものであつて、同年十二月六日以降債務者組合に於いて争議行為に入つたのである。しかしてその頃債務者組合は前記独立採算制の実施とこれに伴ふ帰休措置を撤回せしめるため、工場長以下工場側幹部を捕へて形式上団体交渉をなさんとしたのであるが、実質は多衆の威力を以て脅迫せんとするものであるから同工場の幹部等は身体の危害を避け、且債権者会社の主脳部と連絡協議のため同月十六日工場より脱出するのやむなきに至つたのである。

(十二)、かくて債権者会社加茂工場に於いて実施した独立採算制の効果は水泡に帰し経営危機は愈々切迫すると共に一方債務者組合の争議行為は次第に尖鋭化して険悪な状態を呈し、同月二十三日頃には債務者組合に於いて右工場長以下工場側幹部が前記事情のため工場を脱出したことを目して職場抛棄であり生産サボであるとして、これを理由に生産管理を行う気配が濃厚になつた。よつて債権者会社は債務者組合の争議行為に対抗するための争議行為としていわゆる作業所閉鎖を断行することを決意し同月二十四日債務者組合代表者加藤源次に対し同月二十五日より加茂工場を閉鎖する旨を通告し、且組合員は同日正午迄に工場より退去すべきことを要求した。

(十三)、すると債務者組合は同月二十九日加茂工場長に対し同日午前八時より生産管理に入る旨の通告を為し同日以来引続き加茂工場を占拠し建物敷地機械類その他の設備資材製品を悉くその支配下に置き生産経営を継続しているのである。

(十四)、併しながら生産管理は前記の如く債権者会社が有効に作業所閉鎖を為した後に為されたものであるから違法であるのみならず元来生産管理は所有者たる会社の意思を排除して工場を占拠し組合自ら主体となつて生産経営を行ふものであつて、これを実行するがためには常に暴力を伴ふものであり、又会社の所有権、経営権を侵害し且争議の対当性をも破るものであるから、違法行為である。又仮りに生産管理が緊急状態に基くものであつてしかも組合に於いて善良な管理者の注意を以てその占有する工場機械、資材、原料等を管理し使用者の従来の経営方針に基いて経営をなす場合にはいわゆる理想型生産管理として違法性がないとしても債務者組合の為している本件生産管理は何等緊急状態に基くものではなく、しかもその内容は非常に乱脈であつて製品を不当に廉売し又生産資材を素材の儘売却したり、生産管理以前の会社所有の製品を倉庫より搬出してこれを隠匿したりしているのであつて、会社の意思を全然排除し会社従来の経営方針を著しく逸脱しているものであるから、右にいわゆる理想型生産管理に該当するものではなく違法のものである。又仮りに生産管理が争議行為として適法であるとしても、それは単に事実行為として放任されるに止り、これによつて組合が会社の所有権に対抗しうる何等の権利を取得するものではない。

(十五)、従つて何れの点よりするも債務者組合は本件加茂工場の敷地、建物、機械その他の設備資材等を占有する権限を有しないものであるから債権者会社は所有権に基いて右工場の敷地建物その他の物件の引渡を求め、且債権者会社の業務妨害排除並債務者組合の不法占拠に因る損害の賠償を求めるため、当裁判所に対し工場並物件引渡等請求の訴訟を提起したのであるが、前述の如き事情のため現状の変更に因り判決の執行を為すことが出来ず、又はこれを為すにつき著しい困難を生ずる恐があり、且現状を放置することに因り生ずる著しい損害を避けるため本件申請に及んだ次第であると云ふにある。(疎明省略)

債務者代理人は、債権者の申請を却下する裁判を求め答弁として陳述した要旨は、

(一)、債権者主張の申請理由 (一)記載の事実中加茂工場に於いて蛍光灯を製造しているとの点を否認しその余は認める。同(二)記載の事実はこれを認める。同(三)記載の事実中債権者会社が資金難資材難及過剰人員未整理等のため経営困難に陥つた点は否認する。その余は知らない。同(四)記載の事実は否認する。同(五)記載の事実中いわゆる独立採算制の内容及人員整理の方法を債権者主張の如く定めた点は認めるがその余は否認する。同(六)記載の事実中帰休措置が情況により更新されることに予定されているとの点は不知帰休は実質上一方的解雇であるその余の点は認める。同(七)記載の事実は否認する。同(八)記載の事実中加茂工場長が昭和二十三年十一月十六日以来独立採算制の実施及これに伴ふ人員整理について債務者組合に対し運営協議会を開いて協議することを申入れて来たが債務者組合に於いてこれに応じなかつたことは認めるがその余の点は否認する。同(九)記載の事実は否認する。同(十)記載の事実中債権者会社が同年十二月三日加茂工場に於いて独立採算制及これに伴ふ人員整理を為すことを決定し同日工場従業員百九十七名に対し帰休命令を発し、翌四日工場整理のため同日及五日の二日間臨時休業を為す旨発表したことは認めるが右百九十七名が過剰人員であつたことは否認する。同(十一)記載の事実は否認する。同(十二)記載の事実中債権者会社がその主張の日に債務者組合長加藤源次に対し同年十二月二十五日より加茂工場を閉鎖する旨を通告し、且その主張の如く組合員の退去を要求したことは認めるが、その余は否認する。同(十三)記載の事実はこれを認める。同(十四)、(十五)記載の事実は否認する。

(二)、債権者会社は終戦後の経営困難を強調し収支状態極めて悪く昭二十三年九月未現在に於ける新勘定の借入及未払金合計が十八億三千万円に上ると称しているが右は全く経理内容の欺瞞的な説明であつて、実質的価値の点から見れば債権者会社の経理内容は赤字ではなくして反つて莫大なる資産を擁し経営上も極めて含みのある内容を有しているのである。即ち会社の昭和二十三年九月末日現在に於ける貸借対照表記載の土地、建物等固定資産の帳簿上の価格は極めて低額に評価されているけれども、その実質的価格は五十億乃至百億に達するものである。又各種特権等の無形固定資産は約九億円に及ぶのみならず借入金、未払金等に見合ふべき棚卸資産、当座資産、仮払金合計二十七億九千万円に上るのであつて、これ等のものを勘案するならば経理の均衡は完全に保たれていると云はなければならない。

(三)、債権者会社は金融機関から早急に融資を受けなければ資金難の為崩壊の他ないことを強調しているが、前記貸借対照表に於いても資金化可能な資産は二十億を突破し、又流動資産として棚卸資産、当座資産合計二十二億余円に上りこれに仮払金、未払勘定等を加えれば合計二十六億余円に達し、これ等の勘定は其の内容から見て資金化される可能性が多く資金内容は良好である。従つて会社全体として亦本件加茂工場に於いても独立採算制を実施して人員整理をしなければならない理由は全く存在しないのである。

(四)、しかるに債権者会社は昭和二十三年十一月十六日以来債権者組合に対し右独立採算制の実施とこれに伴ふ人員整理(帰休措置を含む)について協議すべきことを申入れて来たのであるが、前記の通り会社が本件加茂工場に於いて右措置を講じなければならない理由は存在しないのみならず、右人員整理の内容の一つである帰休命令は会社が如何にれを紛飾しても解雇の前提をなすものであり実質上の解雇命令であつて、かかる重大問題に付ては債権者会社と東芝労働組合連合会との間に於て協議せらるべきものであるから、債務者組合は右申入を拒否したのである。

(五)、ところが債権者会社は同年十二月三日突如債務者組合員中の百九十七名に対し一方的に債権者主強の如き帰休命令を発したのである。しかしながら右帰休命令は債権者会社が人員整理の方法として、(イ)退職希望者の募集及、(ロ)配置転換希望者の募集を行つてなほ過剰人員ある場合に行ふ措置であると称しながら、右(イ)(ロ)の方法を講ぜずして突如としてこれを発したものであつて、極めて不当な措置であるのみならず、右帰休命令は前記の如く実質上の解雇であるから協約第四条に従ひ組合の同意を要するもので、又仮りに解雇でないとしても少くとも従業員の給料、賃金を変更するものであるから経営協議会規程及運営協議会規程各第九条に従つて当然経営協議会及運営協議会の協議決定を経てこれを為すべきであるに拘らず、会社は右協議を経ることなく一方的にこれをなしたのであつて、労働協約に違反し且つ労働者の権利を蹂躙する違法のものである。債権者は会社が危急存亡の岐路に立つている特別事情の存する場合には企業経営権に基きその自衛権の発動によつて一方的に前記の如き帰休の措置をなし得ると主張するけれども、会社が危急存亡の岐路に立つているといふことは全く肯定出来ないのみでなく、企業経営権の発動としてこの様な労働者の権利を無視することを許容する法律上の根拠は何等存しないのである。

(六)、そこで債務者組合員は同月四日より平常通り業務に従事すると同時に、同日及同月五日の両日に亘り工場側幹部との間に右帰休命令の撤回について団体交渉をなし、引き続き平常の通り就業しつつ同月九日、十一日、十二日に亘り団体交渉を継続したのであるが、工場側幹部は事態の収拾について何等の誠意を示さず交渉は全然進展しない内に同月十四日より工場側幹部は出動せず姿を消したので右団体交渉は中止のやむなきに至つた。かかる事情の下に於いて債務者組合員は平常通り工場に出勤し平常に業務に従事していたところ債権者会社は同月二十四日に至り突如として債務者組合代表者加藤源次に対し同月二十五日より同工場を閉鎖する旨を通告し、且債務者組合員等が同工場に立入ることを禁止した、しかしながら争議行為としてのいわゆる作業所閉鎖はその本質上労働者側の争議行為により使用者側が甚大なそして償ふことの出来ない損害を避けるため已むを得ず執ることを認められる争議手段であつて、その閉鎖期間も極めて短期間のものでなければならないのである。長期にわたつて労働者の就業権を奪い、その生活に重大の脅威を与へるが如きは争議手段の範囲を逸脱するものであつて違法である。若し右作業所閉鎖に関して自由にしかも無制限にこれをなし得るとすれば使用者側は労働争議に於いて常に絶対優位に立つに至り、労働争議に於ける労資対等の原則は到底これを維持することは出来ないであらう。そして本件に於いてこれを見るならば債務者組合は同日まで何等争議行為をしないのであるから債権者会社にとつて右の如き緊急事態は全然存しなかつたのでありしかも閉鎖について期限を付していないのであるから右作業所閉鎖は適法要件を欠くものと云はなければならない。

(七)、ここに於いて債務者組合は債権者会社の右工場閉鎖に対抗して争議行為としていわゆる生産管理に入ることを決定し、同月二十九日工場長に対して同日より生産管理を為すべき旨の通告を発すると同時に債務者組合に於いて本件加茂工場の土地、建物、機械資材等を占有して生産並に経営を管理することとなつたのである。而して右生産管理は、債権者会社が、前記の如く一方的に違法な帰休命令を発し、これに対して債務者組合が団体交渉によりその徹回を要求したに拘らず、何等誠意を示さずこれを拒否して違法な工場閉鎖を強行し、又昭和二十三年九、十月分の差額賃金及同年十二月六日以降争議行為に入つたものとして同日以後の賃金をも支払はないまま放置し、現下のインフレに呻ぐ組合員の生活に重大なる脅威を与へつつあるので、債務者組合に於て違法なる会社の争議行為に対抗し、組合員の生存権をも擁護する為やむを得ずとつた緊急行為であるのみでなく、本件生産管理の実態は、(1)会社の従来の経営方針に従ひ資材の購入、生産、販売その他従前の通りこれを行ひ、(2)賃金は従前以上に支給せず又、(3)経理面においても生産管理中従来の帳簿伝票に〈管〉の印を押捺して収支ならびに責任を明確にしているのである。要するに平穏にしかも善良なる管理者の注意を以つて工場の土地、建物、機械、設備、資材等総てを管理しているのであつて学者のいわゆる理想型の生産管理を行つているのであるから何等違法性を帯びないものと云はなければならない。(4)この様に本件生産管理は争議行為として適法に行はれているのであるから債務者組合は適法に本件工場の土地、建物、機械、資材等総てを占有しているものである。従つて所有権に基いてこれが引渡を求める債権者の本件仮処分申請は失当であると云はなければならない。又債権者会社はこれよりさき本件工場土地、建物、機械、設備、資材等につき当裁判所に対し他の申請理由にもとづいて本件申請と同一趣旨の仮処分申請をなし当裁判所昭和二四年(ヨ)第二四号仮処分申請事件として審理せられた結果、昭和二十四年三月二十六日本件工場の土地及建物の一部を除いたその余の部分及機械、設備、資材等全部について債務者組合の占有を解いて債権者会社の委任する執行吏にその保管を命ずる旨の仮処分決定を得て同月三十日これを執行したのであつて、仮処分の外更に本件仮処分を必要とする理由は全く存しないのである。従て債権者の本件仮処分の申請は却下せらるべきものであると云ふにある。

(疎明省略)

理由

(一)、債権者会社は資本金九億五千八百万円で全国各地に四十四工場を有し、電気機械器具等の製造販売を営み、新潟県南蒲原郡加茂町大字上條に設置されている債権者会社の本件加茂工場に於ては主として誘蛾灯、電気アイロン、配線器具等を製造していること、そして債務者組合は右加茂工場の従業員約五百名をもつて組織されている未登録の労働組合であつて、債権者会社各工場労働組合をもつて組織する東芝労働組合連合会に加入していることは何れも当事者間と争がない。

(二)、しかして成立に争ない疎甲第三号証、同第十四、十五、十六号証同第二十七号証及証人棧敷順一、山森嘉人、河井優の各証言及証人吉田國治、山下倫喜の証言の各一部及債務者代表者加藤源次の供述の一部を総合すれば債権者会社は終戦後の経済界不振の影響を受け、資金の逼迫資材の不足と戦時中急激にぼう張した過剰人員を適当に整理する機会を失つた為に経営困難となり、昭和二十二年十月より昭和二十三年九月まで一カ年間の支出所要金は約三十七億余円であつたに対し収入は僅かに二十六億余円にすぎず、差引十億余円の赤字を生ずるに至り、借入金で賄い得ない未払金は六億余円に上り昭和二十三年末現在の新勘定に於ける借入金と未払金の合計は十八億余円に達し業績は向上せず、この状態で推移するならば会社は遂に崩壊の他はない窮地に立ち、金融機関からは融資の条件として強く企業の整備を要望せられたので、会社はあらゆる困難を押切つて会社経営の合理化を計ることに決したのであるが、右経営合理化の方法としては各工場別独立採算制を実施する外に途がなかつたことしかして右の独立採算制は各工場の業態、経営状況等により即座にこれを実施し得るところもあつたが、過剰人員があつて人件費の増大している工場では人員整理を断行しなければこれを実施することが出来なかつたので、右のような工場では先ず過剰人員の整理をすることとし、その方法として、(イ)退職希望者の募集、(ロ)配置転換希望者の募集をなし、尚過剰な場合は、(ハ)帰休命令を発することとしたのであるが、そのいわゆる帰休命令と云うのは会社がその過剰従業員に対し三カ月間工場への出勤を停止して家庭に待機すべきことを命じ、その期間中第一カ月は平均基準給料の八割、第二カ月は七割、第三カ月は六割の賃金を支払うものであつて、右期間は事情によつて更新されることも予定されているのであるが、債権者会社に於いては独立採算制の実施とこれに伴う人員整理は従業員の地位及労働条件に重大な影響を及ぼすところから、会社と東芝労働組合連合会との間の労働協約に基き経営協議会に附議して協議成立の上これを実施せんとし、昭和二十三年九月中旬以来右各工場別独立採算制の実施とこれに伴う人員整理(帰休措置を含む)について数回経営協議会を開いてそれを審議しようとしたのであるが右連合会は独立採算制が賃金切下げ、人員整理、一部工場閉鎖等従業員の地位及労働条件に直接関連する点について徹底的にこれに反対する態度をとり、会社がこの問題について社長声明を発してその趣旨の徹底を図り、又団体交渉等のあらゆる機会をとらえてその趣旨の説明をなして組合の協力を得ることに努力をなしたに拘らず、遂に同年十一月六日実質的な審議に入らない内に交渉打切の已むなきに至つたこと。しかして債権者会社の本件加茂工場は当時人員過剰のため毎月多額の欠損を生じ、その最も不採算な工場の一つであつて、当時の製品の需要度、資材設備の関係等を勘案すれば同工場従業員約五百名中約二百名程度は過剰となるところから、債権者会社は同工場に於いて独立採算制を実施するに伴い、右過剰人員の整理を為すため同年十一月十六日以降数回に亘り会社と債務者組合との間の運営協議会に附議しようとしたのであるが、組合に於いてこれを拒否したので、工場長山口辰雄は文書をもつてその趣旨の説明をし、あらゆる方法で組合の協力を求めたが組合は全くこれに応ずる意思がなかつたので、債権者会社はやむなく右加茂工場に於て一方的に独立採算制とこれに伴う人員整理を為すことに決したのであるが、会社に於て人員整理の方法として考慮した前記、(イ)退職希望者の募集、(ロ)配置転換希望者の募集は当時の債務者組合の態度からして到底これを為し得る見込がなかつたので、直ちに、(ハ)帰休措置を講ずるに至つたことが疎明されるのであつて、証人吉田國治、山下倫喜の各証言及債務者代表者加藤源次の供述中之に反する部分は措信しない。そして債権者会社が同年十二月三日同工場の従業員百九十七名に対し前記の如き内容を有する帰休命令を発したことは当事者間に争のないところである。

(三)債務者は右帰休命令は労働協約に違反するものであると主張し、(イ)右協約第四条に「会社は組合員を解雇し又は転任せしめんとする場合は予め組合の同意を得るものとする」旨の規定の存することは弁論の全趣旨により当事者に争のないところであるが、右帰休命令は前記の如き内容のものであつて別に解雇を意味するものとは解されないからこれが同条に違反すると云う債務者の主張は当らない。(ロ)又右協約第六条及経営協議会規程、運営協議会規程の各第九条に別紙記載の如き規定の存することは弁論の全趣旨により当事者間に争ないところであつてこれ等規定の趣旨を綜合すれば、会社が給料賃金に関する規程を変更改廃せんとするときは、経営協議会及運営協議会に附議しその協議成立をまつて初めてこれを実施し得るものであることは明白である。而して本件帰休命令は少くとも帰休者に対する給料賃金の標準を変更せんとするものであるから、会社はこれを経営協議会若は運営協議会に附議しその議決を待つてこれを実施するのを本則とする。しかしながら当時会社及本件加茂工場の企業経営が前記の如く著しく窮迫し経営の合理化をはかる為に已むなく一部従業員の整理を必要とする状態にあつたのであつて、しかも会社及加茂工場長は連合会又は債務者組合に対し会社及工場の右の如き経営窮迫の状態等を説明し、その協力を求めようとしたのであつて、このような場合に於いて連合会及債務者組合が全く協力の態度を示さず、その内容にわたる審議もなさずしてこれを拒否したのは労資の協力を確約した労働協約の趣旨並使用者と労働者との間の法律関係を律する信義則に違背し、拒否権を濫用するものと云わざるを得ないのである、此の様な状態の下に於いては会社は連合会及債務者組合との間の経営協議会又は運営協議会の議決をまたずして企業経営権に基き客観的に妥当な程度の人員整理ならびにこれと不可分の関係にある給与規準の変更をも有効になし得るものと云うべきである。そして本件加茂工場に於いては独立採算制の実施による企業整備の為に約二百名程度の人員整理を必要とする状態にあつたことは前示の通りであるから、会社が百九十七名の債務者組合員に対して前示内容の如き帰休措置を講じたのは適法であつて、別に労働協約の精神に反するものとは解されないのである。

(四)、次に証人山森嘉人、河井優の証言及之れにより成立を認められる甲第六七号証、成立に争ない甲第十八乃至第二十四号証に証人坂田和恒の証言の一部及債務者代表者加藤源次の供述の一部を綜合すれば、債権者会社は右帰休命令を発すると同時に業務整理の為同月四、五の両日臨時休業をなす旨発表したのであるが、債務者組合は同月四日右帰休命令を撤回せしめる為徹底的に闘う旨の闘争宣言を発し、同日及翌五日の両日は工場側が拒否したに拘らず職場に入り多数集合して総務課長山森嘉人、製造課長河井優等工場幹部数名を畏圧して臨時休業の取消或は帰休措置の撤回を迫り、次いで同月六日以降は組合員の一部又はその大部分が連日就業せず、平均して約半数のものは業務を放棄し、組合としていわゆる怠業による争議行為に入つたこと、そして一方組合側は同月六日以来数回に亘り工場側と右帰休命令その他の問題について団体交渉をなさんとしたのであるが、右団体交渉に於ける組合側の態度は甚しく不穏なものであつた為、同月十四日頃以降工場長以下工場側幹部は身辺に危険を感じ、相次いで工場を脱出するの已むなきに至り、同工場は事実上操業停止の形となつて会社が独立採算制を実施するため努力した効果は全く水泡に帰し、同工場は今や存亡の危機に直面するに至つたので、債権者会社は組合の争議行為に対抗するための争議行為として作業所閉鎖を断行することを決意し、債権者主張の如く同月二十四日組合長加藤源次に対して同月二十五日より同工場を閉鎖する旨を通告し、同日正午までに組合員の退去を要求するに至つたことが疏明せられるのであつて、之に反する証人吉田國治、坂田和恒の各証言及債務者加藤源次の供述は措信し難い。そしてその後債務者組合が同月二十九日加茂工場長に対し、同日午前八時より生産管理に入る旨の通告をなし、同日以来引き続き本件加茂工場を占拠し、工場の敷地、建物、機械類その他の設備、資材、製品等を悉くその支配下に収め、生産経営をなしていることは当事者間に争ないところである。

(五)、而して債権者は右生産管理は違法のものであると主張し、債務者は、債権者会社のなした右工場閉鎖が違法のものであつて債務者組合は違法な右会社の工場閉鎖に対抗し、組合員の生活を撤護する為やむをえず本件生産管理をなすに至つたのであり、而も右生産管理は会社の従前の経営方針に従い善良なる管理者の注意をもつてこれをなしているのであるから、右生産管理は争議行為として適法であると主張するので按ずるに、(イ)前記の如く本件加茂工場に於いては独立採算制の実施とこれに伴う人員整理に関して会社と債務者組合との間に意見の一致を見ず、そのために組合は昭和二十三年十二月六日以降怠業による争議行為に入つたことが認められ、右工場閉鎖はこれに対抗する会社の争議行為として行われたものであるから、労働関係調整法第七条にいわゆる作業所閉鎖であることは明かである。債務者は使用者が争議行為として作業所閉鎖を行うには、その云うのが如き緊急状態の存在を要するのであると主張するけれども、右主張はそれ自体にわかに首肯し難く、しかも会社が本件工場閉鎖を断行した当時右の如きいわゆる緊急状態の存在していたことは前記の通りである。又右作業所閉鎖について期限を附するか否かは使用者の任意によるものであつて、使用者が事情により長期に亘つてこれを経続し、その為に労働者の生活を脅威することがあつても、それは争議行為としての本質上当然であつて別に争議行為としての適法性が否定せられるものではない。しかして作業所閉鎖は使用者側の争議手段として認められる唯一のものであり、しかも使用者はその資本を遊休せしめることによつて積極、消極の甚大な損失を覚悟せねば容易にこれを断行し得ないのであるから、使用者が争議行為として右作業所閉鎖を行つても、別に争議に於ける労資対等の原則が破られるとは考えられないのであつて、結局本件工場閉鎖は適法に行われたものと云うべきである。そして此の様に一旦適法な権利行使として工場閉鎖が行われた以上、これに立入り又はこれを占拠することは許されないのであつて、右工場閉鎖の後に工場に立入りこれを占拠して行われた本件生産管理は此の点に於いて先ず違法性を帯びるのみならず、(ロ)そもそも生産管理は組合が会社の意見を排除して工場を占拠し、その建物、機械、設備、資材等総てをその支配下に収め組合幹部の指揮の下に商品の生産販売等の企業経営を行うものであるから、会社のこれらの物件に対する所有権と、これを基礎とする経営権とを積極的に侵害するものであることは疑ない。而して現在の法的秩序の下に於ては一方に於いて労働者の団体行動権たる争議が認められると共に他方に於いて使用者の財産権がこれと対等なものとして認められているのであつて争議権を侵すことが許されないと同様に財産権を侵害することも亦許されないのである。使用者が労働者の意思の支配領域である労働力に対して、又労働者が使用者の意思の支配領域である財産権に対して、何れも積極的な干渉を加えることは法の許容しないところであつて、若し相手方の意思の支配領域を侵すことを許容するならば労働争議を指導すべき根本精神である労資対等の原則は此の点に於いて破綻を来すことになるであろう。従つて債権者会社の財産権を積極的に侵害しているものと認められる本件生産管理は違法であると云わなければならないのであつて、此の結論は債務者組合が善良なる管理者の注意をもつて本件生産管理を遂行しているか否かによつて左右せられるものではない。(ハ)次に債権者会社が昭和二十三年十二月六日以降債務者組合員の賃金給料の支払をしないことは弁論の全趣旨から明かであつて、その為現在の窮迫した経済事情の下に於いて債務者組合員の生活に相当な支障を来しているであろうことは想像に難くない。併しながら前記の如く債務者組合は同月六日以降争議行為としての怠業に入り、債権者会社はこれに対抗して同月二十五日以降工場を閉鎖したのであつて、而かも前記の通り債務者が右の如き争議行為に突入する原因となつた前記帰休命令は別に違法なものではなく又、右工場閉鎖は会社の適法な権利行使として行われたものであるから債務者組合員が、会社より、同月六日以降怠業により少くもその賃金等の一部について又同月二十五日以降はその全額について支払を受け得ないのは当然であつて、その為に生活に支障を来したとしても債務者組合員は、云わば自ら招いた危難としてこれを受認しなければならないものである。従つて本件生産管理が現時の窮迫せる経済事情のもとに於いて債権者の給料等の不支払による組合員の生活上の危機を避ける為、やむを得ず行われた緊急行為であると云うことは、右生産管理の違法性を阻却する事由とはならないのである。

(六)、さすれば結局本件生産管理は違法であつて、債務者組合は本件加茂工場の別紙目録記載の物件を占有する権原を有しないのであるから、債権者は債務者に対し所有権に基いて本件物件の引渡を求め、且債権者の営む業務防害禁止並債務者の不法占拠による損害賠償を求める権利を有するものと云うべきであつて、而も債務者は生産管理をなしているのであるから、これを放置するときは右権利の実行をなすことが出来ず、又は之を為すにつき著しい困難を生ずる恐があり若しくは著しい損害を生ずる恐のあることは明白である。ところで債権者会社がさきに当裁判所に対し本件加茂工場の別紙目録記載の物件に対し其の所有権侵害排除並予防請求権保全の為本件とほぼ同様の趣旨の仮処分申請をなし、当裁判所に於いて昭和二四年(ヨ)第二四号事件として審理した結果、昭和二十四年三月二十六日別紙第二目録記載の建物中第二十八号建家の内債務者組合員の宿舎に使用する北側約六十坪の部分を除くその余の建物、及右建物内に在る別紙第三目録第四目録記載の物件に対する債務者組合員の占有を解いて債権者の委任する新潟地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。執行吏は右目的を達する為、債務者組合員に対し右建物より退去を命じ且右建物への立入を禁ずることが出来る、との旨の仮処分をなしたことは当裁判所に顕著であり、債権者会社が同月三十日その執行をなしたことは弁論の全趣旨により当事者間に争ないところである。債務者は本件仮処分の目的は先の仮処分によつて既に達せられ本件仮処分の理由は、最早存在しないと主張するけれどもの仮処分と本件仮処分とはその保全せらるべき請求権を異にし、仮処分の理由の有無は全く別個に考慮せらるべきものであるから、債務者の右主張は正当でない。

(七)、よつて債権者の前記各請求権保全の為別紙目録記載の物件はすべてこれに対する債務者組合員の占有を解いて債権者の委任する執行吏の保管に移し、債務者組合員の占有する本件加茂工場の鍵全部を右執行吏に引渡さしめ、右執行吏は債権者の申出により右建物及機械類を債権者に使用せしめ、第四物件目録記載の製品、部品素材類を債権者に引渡し、又債務者組合員に対し債権者がこれを使用して営む業務を妨害することを禁止し、執行吏は右目的を達する為、債務者組合員に対して本件土地建物より退去を命じ、又はその立入を禁止することが出来る旨の仮処分をなすを相当と認め、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

労働協約書

東京芝浦電気株式会社(以下会社ト称ス)ト東芝労働組合連合会(以下連合会ト称ス)トハ左記精神ニ依リ協約ス

一、会社ハ民主々義的原則ニ基キ其ノ経営並ニ事業場ノ運営ヲナシ連合会加盟会社事業場労働組合(以下組合ト称ス)ハ之ニ協力スルコトヲ約ス

二 会社ハ各組合ガ夫々ノ事業場ニ於ケル従業員ノ大多数ヲ以テ組織セラルルモノニシテ夫々ノ事業場ニ於テ団体交渉権ヲ有スル唯一ノ組合タルコトヲ承認ス

三 会社ハ本協約ノ公正ナル実現ニ依リ従業員ノ社会的、経済的、文化的地位ノ向上ニ対スル熱意ヲ一層宣揚具現セシムルト共ニ連合会及組合ハ従業員ノ生産意欲労働能率ヲ増進シ以テ相互ニ其ノ責任完遂ノタメ産業平和ノ実現維持ニ努力スベキコトヲ約ス

中略

第四条 会社ハ組合員ヲ解雇シ又ハ転任セシメントスル場合ハ予メ組合ノ同意ヲ得ルモノトス

中略

第六条 会社ガ組合員ノ給料賃金其ノ他給与規定ヲ変更改廃セントスルトキハ之ヲ経営協議会ニ附議ス

以下略

経営協議会規程

第九条 会議ニ於テ協議スベキ事項左ノ如シ

一、会社ノ組織及ビ人事ノ民主的運営及ビ改善ニ関スル事項

二、従業員ノ労働条件ニ関スル事項

三、従業員ノ福利厚生ニ関スル事項

四、従業員ノ給与ノ標準ニ関スル事項

五、第十一条ニ定ムル経営研究会ヨリ提議セル事項

東京芝浦電気株式会社運営協議会規程

第九条 会議ニ於テ協議スベキ事項左ノ如シ

一、工場ノ組織並ニ人事ノ民主的運営及ビ改善ニ関スル事項

二、従業員ノ労働条件ニ関スル事項

三、従業員ノ福利厚生ニ関スル事項

四、従業員ノ給与ノ標準ニ関スル事項

五、工場ノ運営上従業員ニ影響ヲ及ボスベキ事項

(注)

なお、本件の債務者より債権者会社に対して、昭和二十三年十二月二十四日新潟地方裁判所に対し「債権者会社が昭和二十三年十二月三日債務者組合員に対してなした帰休命令は、債務者より債権者に対して提起した右帰休命令無効確認請求訴訟の本案判決確定に至るまでその効力を停止する。債権者会社が昭和二十三年十二月二十四日債務者組合に対してなした新潟県南蒲原郡加茂町大字上篠八二三番地の債権者会社加茂工場の工場閉鎖宣言はこれを取消す。債権者は債務者組合の組合員を右工場に於いて即時就業せしめなければならない。債権者は右組合員に対し賃金の支払い、その他労働条件について、従前の待遇を不利益に変更してはならない」との趣旨の仮処分申請があり、同庁昭和二十三年(ヨ)第八〇号仮処分申請事件として係続し、口頭弁論を経て、昭和二十四年六月三日申請却下の判決があつたものであるが、その判決の内容は(84)事件とほぼ同趣旨であるから省略する。

別紙第一乃至第四目録省略

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